あー…、な、なんかあ…、お、重いしい…、く、苦しいい…?
目が醒める。
苦しいはずだ。
「……何だよ」
喉から絞り出すような声で。俺は言う。
「あ、起きた」
仰向けに眠る俺の胸の上に馬乗りになり、すこし驚いた表情で俺の首にかけていた両手を緩める。
誰だお前は。というか何だお前は。あぁ、杏子か。
「おはよ」
陽気に俺に微笑みかける杏子…俺の恋人の筈なんだが。
「”おはよ”じゃない」
杏子の眼をみて真面目に答える。
「おはよ、優希」
「”おはよ、優希”じゃない」
「おはよ、ゆっきぃ♪」
頬笑んで。
「少しばかり陽気に言ってもダメだ」
「んー…、こんばんは?」
首を傾げてとぼけてみせる。
「……お前…今のこの状況に疑問は無いか?」
「優希が急に眼を醒ましてびっくり」
「……そうか…」
「敢えて言うなら私が優希の首を私の両手で絞めようとしていた、というか絞めていたと言うことでしょうか」
「それだ」
「あ、正解?」
「正解じゃない」
「え? 不正解?」
「そういう問題じゃなく」
「だろうね」
「さぁ、説明して貰おうか」
「あー…、それって結構めんどくさいんだけど…」
とか言いつつ俺の首にかけた両手に力を入れる杏子。
「ごまかすな」
「言わなきゃだめ?」
「…とにかく、俺を殺す前に理由を説明しろ。または俺に何か問題があるなら殺される前に言い訳くらいはしたい」
「じゃあ、言い訳くらいは許してあげよう。私から説明することはありません」
「何故」
「自分の胸、つまりハートに訊きなさい」
俺は心当たりを記憶の中から探り出そうとした。
………考えれば考えるほど心当たりは見つからない。
見つかりそうもなかった。
「…ハートは何も教えてくれないようだが」
「そうですか、では」
首にかけた両手に再び力を入れようとする。
「待てって」
「はい」
「お前は、俺の、何だ?」
「恋人なんじゃないですか?」
「じゃ、俺は、お前の、何だ?」
「恋人ですよね」
「だろ?」
「ですね。でも」
「でも?」
「恋人だからって許されることがそれなりにある様に、恋人だからって許されないこともそれなりにありますよね」
「……そうだが…」
「そう言うことです」
「待て」
「はいな」
「だからってどうして俺の首を絞めようとする? てか、俺、死ぬだろ?」
「まあね。ここは息の根っこだから」
親指で俺の首を『とんとん』と叩いた。
「かなり納得いかないんだが…」
「んー…そだ。じゃあ、優希のベッドの下の引き出しに隠してあった拳銃はなんなのさ」
「は、なにそれ」
「とぼけるな」
そう言うと杏子はようやく俺の首から手を離す。そして何やら自分のポケットをまさぐりだした。
しかし、その瞬間、片手は俺の顔面を鷲掴みにしていた。
「なんだよ」
「多少力が弱くても、相手の頭さえ押さえておけば体の自由の半分は余裕で利かなく出来るんですよ。この隙に優希が起きあがろうとしても無駄です」
確かに…、その上、杏子は俺に馬乗りになっている。
「はいこれ。いち、にっ、さん、しっ、ごっ」
と、言いながらぱっと俺の顔面の手を離すと、俺の顔にポケットから取り出した金色の塊を1つづつ落としてきた。
「痛いって、やめろ」
「はいさっきのはなーんだ、はい時間切れ、正解はこの銃の弾でしたー」
というとさっきのポケットから黒いリボルバー式の拳銃を取り出すやいなや両手で思いっきりハンマーを起こした状態でトリガーに手をかけて銃口を俺の眉間に押しつけた。
「はい。この銃は何連発? そう、6連発。さっき5発分貴方にあげたからこの中にはたった1発しか入ってません。でも、これで十分なんだよねー」
「すまん。なんか展開が早すぎてよくわからないんだが」
「弾ァ持ってない男なんて何も怖くないんだよ」
俺の眉間にさらに力強く銃口を押しつける。
「いや、まて、俺が悪かった」
とりあえず、命乞いをしないとまずいかも知れない。
「何が」
「だから、許して」
「どうして」
「……」
てか、俺が何をしたんだ。マジで。
「って、ばーか」
「は?」
「私が優希を殺す理由なんてあるはず無いし、つか拳銃なんて優希がどうして持ってるの」
「は、はぁ…」
そうだよな? そうだよ…はは。
「夢に決まってるじゃない。こんなの」
「あ、はぁ、あ、はははは…そ、そうだよなぁ」
「うんうん。なんか本気になってるんだもーん。面白かったぁ♪」
「あ…、はははははっ! そうだよなぁ! 朝っぱらから脅かすなよぉっ!」
「うん。はい、そう言うわけでちゃんと眼を醒まさないとね」
「そうだなぁ。なんかやな夢だ」
「そうでしょう? たぶんこれは夢だからここで眠るとちゃんと現実に目覚められるよ」
「うんそうだなぁ。それじゃ」
「うん。さぁ、目を閉じて、おやすみ」
「あぁ、おやすみ…」
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
「それじゃあね」
「………」
下らない夢だな。まぁ、でも、俺が杏子を無意識のうちに傷つけてるって事も、
「寝た?」
「………」
あり得る話だよなぁ。
「あは。それじゃ」
「………」
…杏子に、もう少し気を遣ってやっても悪いことはないな。
「良い夢を♪」
とても冷たい銃口が、眉間から鼻、唇、顎のラインを軽快に滑り、とても冷たい銃口が、のどぼとけのあたりで『ぴたっ』と止まる。
「ここ、息の根っこだからね」
杏子がそう言う。そんな声が聞こえて、俺は夢から醒めた。
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