GECKA_INTERLUNA_WORKS
NOVELS

LOVE UPDATE Ver.1.02
 頭の中にひっかかるもやもやの理由が知りたくて、私は愛用のノートパソコンを開いた。
 パソコンからコードで接続された電子体温計みたいな形のプラグを口にくわえる。

 すると、モニタに表示されるダイアログ。

 『あなたの恋の悩みをチェックしています……』

 0%から100%まで、ゆっくりと作業の進捗を示すメーターが色づいていく。
 私はその様子をじっくりと、ぼーっとしながら眺めていた。

 メーターが全部色づいて、100%になったところで甲高い軽やかな効果音とともにチェック結果がモニタに表示された。

 『1つのエラーが検出されました。あなた(日高かな子さん)には2年間付き合っている恋人(幸村孝司さん)が居るにも関わらず、別の異性(内山雅樹さん)へと恋愛感情が傾きつつある恐れがある脆弱性が検出されました。このままではせっかく築き上げてきた幸村孝司さんとの関係が崩れ、また、その他の人間関係に重大な問題が発生する危険性があります。そのため、それに対処する修正プログラムを用意しました。あなたがこの問題を解決する意志があるのなら、修正プログラムをインストールすることで幸村孝司さんへの恋愛感情を保護することが出来ます。インストール後には、あなたの再起動が必要になる場合があります。インストールすると、削除することはできません』

 結果を読み終えて、プラグをくわえたまま、ひとつ大きくため息をついた。

「まぁ、わかってたんだけどねぇ」

 この悩みを解決するもしないも私しだい。すれば今まで通りの平和な日々が続くのかもしれない。しなければ、多少のリスクは伴っても、刺激的で、エキサイティングで、ドラスティック! …な新しい日々が始まるかも知れない。どちらを選ぶも私しだい…。

 でも、

 問題はどちらも未来の保証は無いってことなのよねぇ。

 パソコンの前であぐらをかいた姿勢で、体をふらふらさせながら考えた。ついでに舌で口の中のプラグの先をいじりながら。

 チェック結果の文章の末尾に表示された『インストール内容の確認』と書かれたボタンをクリックすると、

 『20120712-日高かな子さんの悩みに対する修正プログラム』と表示される。その下にはさっきもチェック結果で書かれていたのと同じような修正プログラムに対する説明書きが施してある。さらにその下には、

 『今すぐインストールする』『削除』

 と、書かれた2つのボタンが並んで表示されている。

 最後の最後に余計迷うじゃないのよぅ…。

 口の中でプラグをもごもごしながらさらに悩む。あたまを”くしゃくしゃっ”とかきむしる。

「あぁ、もう、これ以上私を悩ますな!」

 思わず声に出してしまった。
 すると口も自然と開かれるわけで、プラグが口から落下して、

 パソコンのキーボードの上に音を立てて転がった。

 それを少しのあいだ見つめて、

「……でも、めんどくさいし」

 そう言うと、キーボードの上に転がったプラグを手にとって、再び口にくわえる。

 そして私は『今すぐインストール』をクリックした。

 『5秒後に自動的にインストールを開始します。インストールが終了するまでプラグを口から離さないでください』

 一瞬、頭に”ぴりっ”とした痛みが走って、思わず目をつむる。痛みは一瞬で、次第に頭の中がぼーっとしてくる。

 ダイアログに表示されたインストールの進捗を示すメーターがゆっくりと色づいていく。

 『あと5分』

 メーターの下にインストール完了までの時間が示される。

 『あと5分』、で、私の気持ちは、孝司だけをきちんと愛せるように書き換えられる。雅樹くんとは普通の友達としてこれからもやっていけるようになるはずだ。

 このソフトには今までにも何度かお世話になってるけど、使うときはいつも不思議な感じがする。悩みがすっきりと解決するのは、楽で、良いんだけど、……なんだか…。

 楽じゃないけど、もっと大切な方法があるような気がする。あるような気がする…。

 ぼーっとした頭の中に甲高い軽やかな効果音が鳴り響く。

 『インストールが完了しました。あなたの再起動が必要です。プラグを口から離して、5,6時間ほどの睡眠をとってください』

 ま、良いんだ。どっちみちこれほど楽な方法なんて無いんだ。心に痛みなんてこれっぽっちも感じないんだ。無理して他の方法なんか、知らなくても良い。

 だって、

「めんどくさいし」

 恋は楽しい方が良いからね。

 私がプラグを口から離すと、モニタには『おやすみなさい』とダイアログが表示された。

 私はそのまま強烈な眠気に襲われて、その場にゆっくりと倒れ込んだ。ついでに、なんとかそばに置いてあったクッションを抱き寄せることができた。このまま眠りについて、目が醒めればみんな解決するんだ。爽やかな目覚めが待っている。

「おやすみ」

 自分にも聞こえないくらいの小さな声で、クッションに顔を埋めながら言った。


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