GECKA_INTERLUNA_WORKS
NOVELS

1万年アイス
 公園のベンチで待ち合わせ。
 季節は冬。
 寒い。こんな場所を待ち合わせ場所にするんじゃなかった。
 約束の時刻より、そろそろ15分が過ぎる。
 待ち人は、まだ、来ない。
 私と人1人くらいの感覚を置いて少女が座っている。
 少女は美味しそうに棒付きアイスを舐めている。
 それを見て私は、

「……寒いって…」
 思わず震える声で小さく口に出してしまった。

「寒いときに食べるアイスも良いものです」
 聞こえたのだろう。私の方を向いて少女はそう言った。
 私は横目で『ちらっ』と少女を見た。

「そんなことないです」
 私は少女の言葉を真似て言った。

「私はそんなことあるです」
 少女が答える。

「そう…」
 私は気休めだと思っても、少しでも寒さから逃れるために体を縮ませた。
 しかし所詮気休めだ。

「諦めてアイス食べるのも良いかもです」
 少女は私に言った。

「……嫌です…」
 そう言うと私はマフラーを『ぐっ』と掴みマフラーで口を覆った。

「まれをまっへふんめふ?」
 少女が言った。

「口にアイスをくわえたまま喋らない」
 私が注意すると、
 
「誰を待ってるんです?」
 と、今度はアイスを口から離して言った。

「誰かを待っているなんてあなたに言いましたっけ?」
 私が訊くと、

「思いつきで言っちゃだめでした?」
 少女が言った。

「…何でも良いじゃないですか」
 てゆうか、遅い。早く来い。寒くて仕方ない。

「…冬だからって、アイスが長持ちするかというとそうでもありません」
 少女が、口から離したアイスを見つめて言った。
 溶けたアイスが滴となって、地面に『ぽたり』と落ちた。
 
「結局は、舐めて溶かしてしまいますし」
 そう言うと少女はアイスをまた口にくわえた。

「そりゃあ、ね」
 私は少女を見ながら言った。

「甘いものが食べたいな、って。」
 少女が言った。

「だから、アイスを?」
 私が言った。

「そうです」
 少女はアイスを『ぺろり』と舐めた。

「寒いのに」
 それを見て私は思わず身震いをする。

「それが良いと思ったのです」
 私を見ながら『ぺろり』とアイスを舐めた。

「どうして?」
 少女の方を向かずに言った。

「溶けないと思ったから」
 アイスを見つめながら。

「でも溶けた」
 私はまたアイスの滴が『ぽたり』と落ちるのを見た。

「甘くみていました」
 今度はアイスをくわえた。

「次からは、気を付けると良いよ」
 自分の白い息を眺めながら言った。

「もう少し甘えられると思っていたのに」
 またアイスを口から離して言った。

「残念だったね」
 コートの中から使い捨てカイロを取り出し、無意味に振ってみる。

「溶けないアイスがあればどれだけ良いことでしょうか。いつまでも甘えていられるから。でも、溶けないアイスは無いんですね」

「無いね、残念ながら。私もそろそろ我慢の限界。あいつが来る頃には溶けてしまいそう。あいつ、甘えすぎだよ」
 少し、きつい口調で言った。

「人も、同じですか?」
 少し、弱々しい口調だ。

「あぁ、…たぶん……かな…」
 さっきはきつく言った割に、少し口調が弱くなった。

「あ」
 少女の顔が急に明るくなった。

「どうしたの?」
 少女の顔を少し覗き込むようにして言った。

「あたりが出ました」
 当たり棒を見ながら、満面の笑み。

「あ、おめでとう」
 手袋をした手で『ぽんぽん』と小さく拍手をする。

「もう一本です」
 私に当たり棒を見せて言った。

「だね」
 それを見て私も笑みを浮かべた。

「食べます?」
 いたずらっぽい笑みを浮かべて。

「要らない」
 私は首を振って拒否した。

「美味しいのに」
 やっぱり残念そう。

「寒いって」
 意地でも要らない。

「わかりました、では、私はこれで」
 そう言って立ち上がる。

「ああ。風邪引くなよ」
 私は少し鼻をすすって言った。

「はい」
 そう言うと少女は少し小走りにこのベンチを後にした。

「さむ…」
 再び体を縮ませる。

 待ち人はまだ来ない。
 
「私が溶けてしまうまで、あと10分だぞ…、と」

 アイスの当たり棒を持って公園を出る少女の後ろ姿が見えた。
 そして、雪が、ちらついてきた、昼下がりの頃。私は、

「雪かよ…」

 そう呟いた。


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